一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

2016-10-28 もう5時だからそろそろいいよねぇ

鈴木邦律 (東京大学大学院新領域創成科学研究科)

大隅先生、この度はノーベル医学生理学賞の受賞、誠におめでとうございます。しばらく前から、近況を報告がてらラボに遊びに来るよう、誘われていたのですが、いい機会を探してモタモタしているうちに今回の受賞となり、訪問の機会を逸したことを少々残念に思っています。

私は1999年の4月に総合研究大学院大学の博士課程に入学し、当時基礎生物学研究所に所在した大隅研究室に所属しました。その前年に大隅先生にご挨拶に伺った際に、水島さん(現東京大)のAtg12-Atg5の論文がNatureに掲載されたと話されたことが記憶に残っています。私が研究室に入って間もなく新谷さん(現東北大)により、最初のスクリーニングで同定された15種類のAPG遺伝子の中で残された最後の遺伝子であるAPG2のクローニングが報告されました。オートファジーの歴史の中では黎明期から興隆期に入ったタイミングになるでしょうか。博士課程を通じて、当時研究室のスタッフだった、吉森先生(現大阪大)、鎌田さん(現基生研)、野田さん(現大阪大)には大変お世話になりました。大隅研究室が基生研から東京工業大学に移ったのが2009年、私が大隅研から異動したのが2011年の10月でしたので、12年半もの間大隅研究室でお世話になったことになります。

その間大隅研究室では、公の場では言えないような事件がたくさんありました。それはまたの機会に譲るとして、私が大隅先生から学んだことをいくつかご紹介します。ひとつは、データに向き合う真摯な態度です。学生の持ってきたどのような些細なデータでも丁寧に議論していただいた姿勢が記憶に残っています。もうひとつは論文への徹底的なこだわりです。Atgタンパク質の細胞内局在を示すのに、toを使うかonを使うか、はたまたatを使うかで2-3時間議論することはざらでした。また、論文を投稿する直前になって、よりよいストーリー展開を思いつき、論文の構成を一から組み直すこともありました。その際は、土日をまたいで20時間を超えるdiscussionをしたことを思い出します。練りに練って論文を投稿する姿勢は、今でも見習わなければならない点です。最後は、研究に対して真摯であるものの、仕事とアフターファイブの切り替えが見事だった点です。基生研時代は、夕方になると、「もう5時だからそろそろいいよねぇ」と、ビールの相手を探して研究室内を歩き回っていました。当時は賞などとは全く無縁の研究生活でしたが、哺乳動物においてオートファジーの重要性が明らかになるにつれ、あれよあれよと言う間にとてつもなく高いところに到達されました。

大隅先生はノーベル賞受賞のインタビューで、オートファジーでこれまで分かったのは30%くらいではないかとおっしゃっていました。そうだとするならば、残り70%の中にまだまだ大きな宝が残されているかもしれません。大隅先生もまだまだ現役で研究なされると思います。大隅先生と共に残された課題を解明することが大隅先生に薫陶を受けた我々研究者の大きな課題だと考えています。


(2016-10-28)

日本細胞生物学会賛助会員

バナー広告