一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

Collagenゲル内におけるMDCK 3次元cystの作成

author鈴木 厚
所属横浜市立大学・医・分子細胞生物
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Keyword MDCK, 3D, cyst, polarity, collagen
Published2011-10-14Last Update2011-10-14
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概要・原理

上皮細胞の極性は、基底面からの接着刺激に大きく依存するが、2次元培養系ではおのずから基底面が与えられており、そこからの強い刺激によってすでに極性がかなりの程度規定されている。こうした点を解決し、ECM成分やそれに由来するシグナルが上皮極性の形成、特に、アピカル膜形成能を評価する上で、ECMゲルの中で培養し、自ら自律的に管腔を形成させる(cystを形成させる)3次元培養系は非常に有用である。実験的な自由度が低下する一方で、上皮細胞極性異常を2次元培養系よりも敏感に検出しうる系としても多用されている(Debnath et al. Methods 30: 256-268, 2003, Methods Enzymol. O’Brien et al. 406: 676-691, 2006)。

MDCK細胞、Caco2細胞、MCF10細胞などで報告されるとともに、初代培養乳腺上皮細胞でも報告されている。細胞によってcyst形成を引き起こす主たる駆動力が異なるようであり(Dotta et al. Curr Biol. 21:R126-36, 2011.)、1) apical膜小胞が細胞内部で融合してできる大きなvacuole(VAC: vacuolar apical compartment)が細胞外基質と接していない膜に融合することによって管腔形成を引き起こすとされるMDCK細胞の場合と、2)やはりapical膜小胞の融合でapical膜は既定されるものの、管腔が開くためには、さらにイオンポンプの働きによる内部への水の運搬が必須とされるCaco2細胞の場合、そして、3) 細胞の凝集体の中の細胞のうち、ECMに接していない細胞がアポトーシスを起こすことによって管腔ができるとされるMCF10細胞の系(初期胚の羊膜腔の形成機構に類似)がある。下記には、MDCK細胞を用いた際のcyst形成、解析法を記載する。

装置・器具・試薬

  • (通常の細胞培養に使用するものを除く)
  • 12穴Transwell filter (TW) (Corning #3460: ポリエステル, 0.4um pore)
  • ウシ真皮由来アテロコラーゲン酸性液 (KOKEN IPC-50) 氷上でよく冷やしておく。
  • 1M Hepes/HCl pH7.4 (コラゲンを含む培養液のpH安定化用) ---終濃度20mMとなるようにDMEM(10% FBS)と混合し、氷上でよく冷やしておく。
  • <Matrigelを用いた変法>
  • Lab-TekII chambered coverglass(8well)
  • Matrigel GFR (growth factor reduced: BD Bioscience #354230)

詳細  *それぞれの写真をクリックすると拡大します。

    • MDCK細胞を0.25% trypsinを用いてharvestする。 メディウムを加えて反応を止め、ピペットマンを用いてピペッティングを繰り返し、細胞をできうる限りsingle cellにする。
    • 細胞数をカウントし、マイクロチューブに4.0x10^5 cellsになるように分取する(これで12穴TWについて約6well分となる。必要に応じて、細胞数を変化させること可)。
    • 遠心により細胞を集め、600ulのice-cold DMEM(10% FBSと20mM Hepes/HCl pH7.4を含む)でよくばらばらにする。
    • 400ulのcollagen酸性液(KOKEN IPC-50)を添加し、氷上でゆっくりと混ぜ、細胞を均一にする。
    • 細胞懸濁液150ulをTW insertに添加する(6.0x10^4 cells/well)。37℃で5~10分培養し、collagenを固化させる。
    • 37℃に温めておいたメディウムをゲルの上に500ul, insert外部チャンバーに1.5ml添加して培養を開始する。数日で内部にlumenを有したcystが観察できるようになる。
    • 以下、変法として、Matrigel内における3次元cystの形成 を記載する。
    • 前もって冷やしておいたLab-TekII chambered coverglass(8well)に40ulのMatrigel GFR (growth factor reduced: BD Bioscience #354230)を添加し、P-200のマイクロピペッターで薄く均一に広げる。37℃ 10分処理によって固化させる。
    • ice-cold DMEM(10% FBSを含む)によって4%に希釈したMatrigel溶液と、(I)と同様にして準備した5 x 10^4 cells/mlのMDCK細胞分散溶液(ここではHEPESを除く)を等量混合する。
    • 300ulの混合溶液を、1で準備したchamberに加える。
    • 2日おきに上記2% Matrigel溶液を用いて培地交換する。

工夫とコツ

  • 細胞は前日にうすく播きなおしておいた方が,次のステップで簡単にsingle cell化する
  • collagen 溶液、Matrigel溶液は、温めると固化するので、氷上で保存する。
  • 実験の目的に応じて、培養日数を調整する。
  • ゲルの内部ではなく、薄く固めたゲルの上に重層(overlay)した薄いECM溶液中でcystを形成させる方法。MCF10A細胞に対して最初に報告された方法であるが、近年MDCK細胞にも応用され、cyst中のspindle polarityの研究などでよく使用されている(Debnath et al. Methods 30: 256-268, 2003)。
  • lumenが形成されるまで約3日程度。MDCK cystはゲル上で固定されていない場合があるので、培地交換はマイクロピペッターを用いて極力cystを吸い込まないように静かに慎重に行う。完全に培地を吸う必要はない。

参考文献

  • O’Brien et al. Methods Enzymol. 406: 676-691, 2006
  • Debnath et al.  Methods 30: 256-268, 2003