一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

新着細胞生物学用語集(細胞極性関連)

非対称分裂
【Asymmetric cell division】
入江 賢児
筑波大学大学院人間総合科学研究科(基礎医学系)分子細胞生物学グループ
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細胞分裂によって2つの異なる細胞を生じるような細胞分裂。非対称分裂は細胞の多様性を生みだす基本的なしくみである。個体発生の過程では、少数の未分化な前駆細胞(もしくは幹細胞)が細胞増殖を繰り返し、特定の機能や構造を形成する細胞集団が形成されていく。非対称分裂は、このような過程で、細胞内の非対称性や細胞外の微細環境(ニッチ、niche)に基づいて、未分化な細胞からより分化した細胞を生じるメカニズムである。
参考文献
1;Mechanisms of asymmetric cell division: two Bs or not two Bs, that is the question. Horvitz HR, Herskowitz I. Cell. 1992 Jan 24;68(2):237-55.

PAR-aPKC システム
【PAR-aPKC system 】
鈴木 厚
横浜市立大学大学院医学研究科 分子細胞生物学 医学部分子生物学教室
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atypical PKC、および6種のPARタンパク質(PAR-1〜PAR-6)で構成される、種を超えて存在する普遍的細胞極性制御シグナル伝達システムを指す(線虫以外ではPAR-2に相当するタンパク質はいまだ同定されていない)。

細胞分化や幹細胞維持に必要な細胞の非対称分裂、さらには、分化を終えた上皮細胞や神経細胞の形態、機能の非対称化・極性化にも必須な機能を発揮している。多細胞生物の誕生とともに出現したシステムと考えられ、多細胞個体の複雑な形態形成と細胞特異的な機能獲得を可能にする上で、重要な役割をはたしてきたと推測される。

細胞内外からの極性シグナルに応答して、システム内のタンパク質間の相互作用にが生じ、細胞膜直下においてaPKC/PAR-3/PAR-6複合体とPAR-1が相互排除的に分布し、そのことによってまず、非対称な膜ドメインを確立される。その後に、それぞれの因子(特に、aPKC, およびPAR-1といったセリン・スレオニンキナーゼ)が細胞骨格系や細胞内輸送系を制御することによって細胞全体の非対称化が引き起されると考えられる。
参考文献

A. Suzuki & S. Ohno The PAR-aPKC system: lesson in polarity. J. Cell Sci. 119: 979-987 (2006)

鈴木 厚、大野茂男, 細胞工学 24(3)、 「aPKC/PARシステム:多細胞生物の細胞極性を普遍的にコントロールする分子制御装置」227-230, 秀潤社, 2005

酵母の極性と輸送
【cell polarity and polarized transport in yeast】
田中 一馬
北海道大学 遺伝子病制御研究所 疾患制御部門 分子間情報分野
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 細胞極性形成の基本的な過程は、(1) 位置のシグナル(polarity cue)、(2) 位置のシグナルからのシグナルの伝達 (signal transduction)、(3) 細胞骨格の再編成、(4) 極性輸送(polarized transport)から成る。出芽酵母の場合、(1)は出芽痕に関連しており特異的であるが、(2)、 (3)、 (4)は真核細胞に広く見られるメカニズムである。特に(2)の中心を成すのはCdc42低分子量GTP結合タンパク質(small GTPase)とそのエフェクター(effector)群であり、エフェクターの中にはフォルミン(formin)のように(3)において重要な役割を果たすタンパク質もある。酵母において輸送の原動力はミオシンV(Myo2)であって、アクチンケーブル(actin cable)に沿って輸送小胞(transport vesicles)やmRNAなどを極性形成部位へ輸送する。輸送小胞の極性形成部位近傍の細胞膜(plasma membrane)への融合はそのまま極性成長(polarized growth)へと繋がる。
参考文献

細胞分裂軸
【Cell division axis】
豊島 文子
京都大学ウイルス研究所 細胞生物学研究部門 構造形成学研究分野
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 細胞が分裂する方向のことであり、細胞分裂面と垂直に交わる軸方向を指す。細胞分裂軸は分裂期紡錘体の両極を結ぶ線と平行であるため、紡錘体軸の方向によって分裂軸が決定される。紡錘体軸は多くの場合、分裂中期に決定されるが、幾つかの組織・細胞では分裂後期に軸方向が変化するとの報告もある。
紡錘体軸の方向は「細胞の形」「細胞極性」「細胞―細胞間接着」「細胞ー細胞外基質接着」などの細胞内外の要因によって決定される。細胞は、周囲の環境や細胞の分化過程によって、これらの要因を使い分けている。そのため、紡錘体軸を決める分子機構は細胞や組織の種類によって異なる。進化的に保存されている紡錘体軸制御因子としてGα-LGN-NuMA複合体が広く知られている。しかし、全ての場合においてこの複合体が主要因子として機能するわけではないので、注意が必要である。
参考文献
生化学 84, 81-91, 2012

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