中戸川 仁東京工業大学 生命理工学院
2016年10月3日の夕刻、教授室ではなくなぜか実験室の電話が鳴り、私のところの学生(女性)が出るも英語に動揺。(“Yoshinori Ohsumi?”という問いに何を血迷ったか“Yes”と答え相手を沈黙させたらしい。大隅先生がご受賞を逃すことにならず良かった。)彼女はオーストラリア人の助教にバトンタッチ。彼は先方の“Hello”のスウェーデン訛りで確信したらしいが、そのまま大隅先生へ。こうして、公式アナウンスメントよりも前に、研究室に受賞の連絡が舞い込んできました。2013年のトムソンロイター引用栄誉賞の受賞以来、毎年この季節にはマスコミが騒ぎ出し、発表日には記者団が研究室に押しかけるのが定番になっていましたが、なぜか今年は例年よりも静かな気がして、それが何かありそうな予感にも感じられていました。マスコミには別室を用意して待機させていたため、彼らに悟られないよう、研究室の中でメンバーは静かな興奮に包まれ、世間よりも一足早く、喜びに浸ったのでありました。
大隅先生、ノーベル賞のご受賞、誠におめでとうございます!私は2004年にポスドクとして岡崎の研究室に加えていただき、現在まで12年半、一緒に研究させていただいてまいりました。私が入った年度に、大隅先生が最初の大きな賞、藤原賞を受賞され、以降、私は常に近くで大隅先生の数々の受賞を目の当たりにし、貴重な経験を幾度となくさせていただきました。今年度中に漸く自分の研究室を持つことが決まっていましたので、「ここまで来たら今年お願いします!」と密かに思っていました。近くにいたため色々巻き込まれましたが嬉しい悲鳴に過ぎません。受賞後のそれどころではない中、嬉しすぎて色々すみませんでした。受賞決定を伝える電話を受けている先生のお写真を撮ったりしてすみませんでした。電話を切られた直後、日時入りのサインを書かせたりしてすみませんでした。今までそれほど関心も示さなかったのに、急に四つ葉のクローバーをいただいたりしてすみませんでした。何故かいきなりお名前の刺繍入りのジャケットをいただくことになったりして、これはねだったわけではありませんが、大切にさせていただきます。
私は、こうした華々しい時期に居合わせながらも(居合わせたからこそ)、残念に思っていることがあります。一つは、私が大隅研究室に加えていただいたのは、オートファジー研究の黎明期や黄金期(Atgタンパク質の基本機能が次々に明らかにされていった時期)の後であり、単純に「その時期の興奮を味わってみたかった!」ということです。もう一つは、長くご一緒させていただいてきたにもかかわらず、「これでオートファゴソーム形成の謎は解けた!」といえるような成果を出すことができていないということです。自分が大隅先生の数々のご受賞に貢献できなかったことが私にとっての心残りです。でも、ノーベル賞に到達したとはいえ、オートファジーにはまだ基本的な謎が山積しています。ここからでも、大隅先生に、「これでようやっとわかったといえるところまで来たね」、「まだそんなおもろいことが残ってたんだ」、「ひょえー!」などと言っていただけるような発見ができるよう頑張っていきたいと思っています。
このたびはご受賞、本当におめでとうございました。授賞式までご多忙を極めることと思いますので、お体にはくれぐれもお気をつけください。基生研時代、二度ほど先生の実験をお手伝いさせていただいたことがあります。まだまだ現役で研究を続けられるとのことですので、またいつでもお声かけいただけたら嬉しいです。
筆者の実験を邪魔する大隅先生、ではなく、大隅先生の実験をお手伝いしている筆者。奥は壁谷幸子さん。2008年、基生研にて。