一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

Vol.17 January (1) 4年間を振り返って

永田 和宏 (京都大学)

 前任の廣川信隆東京大学教授から引き継いで以来、2期4年間、日本細胞生物学会会長を務めさせていただきました。平成18年からは、新会長、中野明彦東京大学教授にバトンを渡すことになり、ホッとしておりますが、この機会に、会員の皆さまにご挨拶を申し上げると同時に、感謝の意を表したいと存じます。

 振り返りますと、この4年間は細胞生物学会にとって大きな変革の時期でありました。「ワーキンググループ将来問題検討委員会」「日本細胞生物学会大会の将来を考える委員会」「将来計画委員会」などを順次立ち上げ、みんなで何度も会議を重ねつつ、細胞生物学会のあり方について議論を深め、そしていくつかの改革を行いました。 第一に、細胞生物学会大会のあり方が大きく変わったことは特記すべきことであると思います。「学会とは何か」を議論するなかで、学会の存在理由を大会に求めるという姿勢が確認され、学会のもっとも大きな活動を大会の活性化にむけて集中するという方針が承認されました。

 その結果、従来の大会のあり方を見直し、抜本的な改革がなされました。毎年毎年プログラムが場当たり的に変化する大会ではなく、継続的なプログラム委員会を組織して、細胞生物学として大切ないくつかの柱を中心に、長期的なビジョンに立ってプログラム案を設定する。個々のセッションについては、オーガナイザーを委嘱して特色を出してもらうという形に変わりました。 また、大会を通じて英語での発表を基本とし、海外から招待演者を呼ぶとともに、シンポジウムを1会場に限定することになりました。自分の興味のある会場にだけ顔を出すのではなく、大会を、細胞生物学全体の最前線を知る機会として利用するという形に変わりました。会員数が少ない時期には、すべての発表が1会場で行われていたこともありますが、研究者がますます狭い自分だけの井戸に閉じこもりがちな現代の科学研究のなかで、私たちがサイエンスをやる喜び、楽しみとは何かを、もう一度根本的に、かつ原典から問い直そうという試みでもありました。

 招待演者を海外から要請するだけでなく、ポスター発表に若手の研究者を招待演者と同じ待遇で招待するという試みも同時にスタートしました。大学院生、ポスドク、若手のPIなど、invited speakerとしては招待されないけれど、サイエンスのもっとも活きのいい部分を担っている研究者たちと、日本細胞生物学会の若手の会員たちとを同じ土俵にあげて、議論してもらおうという意図がありました。これはまさに画期的な試みであり、ポスター会場がさながら国際学会のような活気を呈したことは記憶に新しいところであります。各種雑誌や新聞などでも、細胞生物学会のこの新方式が注目されました。 このような大会の大きな変革をもっとも意欲的に提案し、推進してこられた月田承一郎さんが昨年お亡くなりになったのは、なんとしても残念なことでありました。この号には月田さんの追悼特集が組まれていますので、それをもお読みいただければと思います。

 第2の大きな変革は、長い歴史を持ち、日本の細胞生物学研究を牽引してきた学会誌、Cell Structure and Functionのオンラインジャーナル化でありました。大会に活動を集中するなかで、財政的な側面から、雑誌をどうするかということが真剣に議論されました。学会の財政の大部分を占める雑誌の運営とともに、論文がなかなか集まらない、文部科学省からの補助金を受けていることから、掲載論文数の制約があり、ある程度レベルを犠牲にして受理・掲載をしなければならないなど、従来から課題とされてきた問題に議論が集中しました。一時は雑誌の廃止を考え、その線で動いても来たのですが、最終的には完全オンラインジャーナル化ということで新しいスタートを切ったことはご存知のところです。これだけではなく、それらの改革の柱に付随してさまざまの問題を議論し、多くの変革を行ってまいりました。その意味では、この4年間は、まことに嵐のような4年間であったと振り返らざるを得ませんが、大会にも活気が出て、また雑誌も(例えば卑近なところではCSFのインパクトファクターが3近くに上がるなど)いい傾向を示し始めているのは喜ばしいところであります。しかしながら、これらの改革が真に実のあるものになるためには、改革を断行したあとの数年間、それをどのように育てていくかにかかっていることは言うまでもありません。その意味では、成果が問われるのは、これからの2年、あるいは4年であると言っても間違いではありません。

 幸いにも、今回、中野明彦さんが会長に就任されることになりました。中野さんは、これまでCSFの編集委員長として、執行部にいて改革の先頭に立っていただいた方でもあり、後事を託すのにこれ以上の方はないのかも知れません。私も個人的には今後も全面的に協力をしていきたいものと思っております。

 最後になりましたが、この4年間を支えていただいた執行部の方々、庶務幹事の米田悦啓さん(大阪大学)、後藤由季子さん(東京大学)、会計幹事の貝淵弘三さん(名古屋大学)、そして中野明彦さんに改めて感謝の意をお伝えしたいと思います。私自身は性、本来怠惰であり、ひとりではとてもこのような大きな変革を推進してくることはかなわなかったと思いますが、皆さんのおかげでいい方向に動いてきたことをありがたいことだと思っております。また言うまでもないことですが、これらが軌道にのったのは、なにより会員各位のご理解とご協力があったことは改めて記すまでもありません。 また、細胞生物学会事務局で常にさまざまの雑事を労をいとわずこなしていただいた加藤晴巳さん、そして何事にもいい加減な私を支えてなんとか4年間会長として続けられる力になってくれた秘書の石田玉美さんに、最後に感謝したいと思います。


(2006-01-31)

日本細胞生物学会賛助会員

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