井垣 達吏京都大学大学院生命科学研究科
本年6月に米村重信前会長の後を受け、日本細胞生物学会会長に就任いたしました。身にあまる重責ですが、精一杯の努力をしていく覚悟ですので、2年間どうかよろしくお願い申し上げます。
私は今から15年前にアメリカ留学から帰国し、神戸大学で独立させていただいたのを機に細胞生物学会に入会しました。新参者の私をとても暖かく迎え入れてくれるフレンドリーで懐の深い学会というのが、最初の強い印象でした。以来、本学会は私にとって一番大事な学会となりました。年会では若いうちから様々な先生方に発表や企画の機会を与えていただき、また貝淵弘三会長の時に会計監査を仰せつかったのを機に学会運営にも携わらせていただくようになりました。そして、吉森保会長の時に選挙管理委員長、大野博司会長の時には庶務幹事と将来計画実行委員長を務めさせていただき、組織運営のみならず研究コミュニティの大切さや一研究者としてのあり方など多くのことを学ばせていただきました。森和俊先生が開催された京都大会では、プログラム委員長として大会運営を学ばせていただきました。これまで私を育ててくれた細胞生物学会に恩返しをしたいというのが、今の私の強い気持ちです。
日本では学会の存在意義が議論されるようになって久しいですが、細胞生物学会でもその議論がなされてきました。これは本学会のような中小規模の学会に限ったことではなく、体力のある大きな学会でも同様です。サイエンスの細分化と多様化、そして研究領域のボーダーレス化によって各学会の危機感はますます高まってきているかもしれません。しかし一方で、以前に将来計画委員会答申にも書かせていただきましたが、研究者として生きていく上で自分が大事にしたいと思う学会の存在は不可欠だと思います。学会は単に成果発表や情報収集をする場ではなく、研究者同士が直に交流し、信頼関係を築き、それによってサイエンス(そして人生)を大いに楽しむというのが目的だと思うからです。その意味で約1,100名という現在の細胞生物学会の規模は、ある意味理想的にも思えます。年会では全てのポスターを見て回れますし、プレナリートークでは全ての参加者が1つの会場に集結できます。「お互いの顔が見える学会」というのは、本学会の誇るべき伝統だと思います。その点において、コロナ禍を乗り越えて対面開催が実現された本年6月の今本尚子大会長による東京大会は本当に素晴らしいものとなりました。参加された方々は学会の素晴らしさを再認識し、交流の大切さを実感したことと思います。来年6月の吉森保大会長による奈良大会も今からとても楽しみです。1人でも多くの方が奈良に集結してくださることを願っております。
学会の将来を考える上で、若手の育成と支援は非常に大きな意味をもちます。細胞生物学会は2009年に学会賞としての「若手優秀発表賞」を設立しましたが、これを受賞した若手が今や様々な研究領域のトップランナーとして世界的に活躍しており、それによってさらに賞の名声が高まるという好循環が生まれています。若手の方々の積極的な応募に加えて、毎年選考にご尽力いただいている中堅~シニア研究者の方々の努力の賜物でもあります。一方、2014年に設立された「細胞生物若手の会」は、大学院生が中心となってサイエンス重視の独自路線を発展させ、学会とも連携しながら日本における唯一無二の若手の会として成長を遂げつつあります。毎年の若手の会の開催に加えて、来年は奈良大会本会においても若手の会企画シンポジウムが開催される予定です。今後は学会運営でも若手の会と連携しながら様々なアイデアを取り入れたいと考えております。
学会にとってもう一つの重要な使命が、学会誌Cell Structure and Function(CSF)の発展です。これまで4年間、吉田秀郎編集長が文字通りCSFと心中する覚悟(ご本人談)でその運営に心血を注いでくださいました。それにより、このジャーナル乱立の時代においてCSFはその質やインパクトファクターを維持し続けています。そして、米村前会長と吉田編集長のご尽力により、引き続き2022年から5年間 CSF運営のための科研費を獲得することができました。来年1月からは、松田道行新編集長がCSFを引っ張っていってくださいます。日本のサイエンスにおいて、細胞生物学会が認めて掲載したCSFの論文はそれだけの意味をもつものと信じています。CSFへ良質な論文を投稿するのは学会を大事にしたいと思う私たち細胞生物学会員以外にはいない、というくらいの意気込みでよいのではないでしょうか。
これまでの細胞生物学会の良さを維持しつつ、積み重ねてきた将来のための議論を新たなアイデアとともに実現するための執行部メンバーをこの度構成しました。副会長には、これまでCSF編集委員長および学会副会長として学会を支えられてきた兵庫県立大学の吉田秀郎先生にお願いし、未熟な私を支えていただくことにいたしました。庶務幹事には、これまで執行部で手腕を発揮されてきた京都大学の濵崎洋子先生と、若手優秀発表賞選考委員長等で学会にご尽力されてきた愛知県がんセンターの小根山千歳先生にお願いいたしました。また、会計幹事には最近京都大学iPS細胞研究所で独立されたばかりの小田裕香子先生にお願いし、元気いっぱいの執行部メンバーが完成しました。メンバー全員が学会の将来計画委員会メンバーの卒業生です。これからは学会執行部自体が将来計画実行委員会そのものとして機能すべきだと思っております。本学会を長年牽引されてきた大阪大学の吉森保先生と京都大学の松田道行先生には、監事としてご指導いただきます。また、九州大学の池ノ内順一先生には選挙管理委員長として学会を支えていただきます。
本学会を通じて会員一人ひとりのサイエンスの楽しみが広がっていくような学会を目指していきたいと考えております。学会員の皆様のお力添えをどうかよろしくお願い申し上げます。