藤原 佐知子大阪大学大学院 基礎工学研究科
ヘミデスモソームは上皮特異的な細胞-基質間接着複合体であり、上皮細胞を基底膜に連結する役割をもつ。ヘミデスモソームでは膜貫通タンパク質であるインテグリンα6β4が細胞外ドメインで細胞外基質と結合している。重層上皮では同じく膜貫通タンパク質であるコラーゲンXVIIも加わりヘミデスモソームが強化される。細胞内ではインテグリンβ4はプレクチンと、コラーゲンXVIIはBP230と結合し、これらがケラチン繊維を接着部位に繋留している(図1)。 ヘミデスモソームの構成タンパク質の機能不全は表皮水疱症などの重篤な皮膚疾患の原因となることから、上皮組織のバリア機能に重要であることが古くから知られている。加えて近年では、ヘミデスモソームが細胞運動やメカノセンシングに重要な役割をもつことを示唆する報告も増えている。ケラチノサイトでは、ケラチンを完全に失うとヘミデスモソーム構造が喪失し、基質への接着が早く、細胞運動の速度が早くなることが知られている。このことから、ヘミデスモソーム構造自体は中間径フィラメントに依存して形成されること、ヘミデスモソーム構造の減弱が細胞運動を促進することが示唆される。また、正常乳腺上皮細胞由来MCF10A細胞は三次元環境下で培養すると、基質が硬い環境では形質転換し間葉系細胞の性質を獲得することが知られている。このような基質の硬さ依存的な形質転換にはインテグリンα6β4のクラスター形成の抑制、ヘミデスモソーム形成の抑制と、それに伴うPI3K、Racシグナル経路の活性化が促進された結果、細胞運動能が亢進されることが示されている。上記の例からもヘミデスモソームがRhoシグナルを始めとする細胞内シグナル伝達経路の制御に関与し、細胞運動やメカノセンシング機能に寄与することは明らかである。しかしその詳細な分子機構については未だ不明な点も多く、今後の研究の進展が待たれる。
参考文献
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