中野 明彦東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻
ゴルジ体の構造は,一部の出芽酵母(たとえばSaccharomyces cerevisiae)のように,ゴルジ槽(Golgi cisternae)が層板構造をとらず細胞質中に散らばっているものから,植物や無脊椎動物のようにゴルジ槽が積み重なったゴルジ層板(Golgi stacks)が1つ1つ独立して存在するもの,哺乳動物のように巨大なゴルジリボン(Golgi ribbon)を形成するもの,と生物種によってさまざまである。しかし,その共通の特長として,入り口であるcis側から出口であるtrans側へ向けての機能的な勾配はよく保存されている。形態的に,cisとtransの端では,層板構造に連なる網状構造が見られることが古くから知られ,それぞれcis-Golgi network (CGN), trans-Golgi network (TGN)と呼ばれた。CGNは,ゴルジ層板近傍の中間区画(ERGIC)に相当すると考えると理解しやすい。一方TGN(日本語ではトランスゴルジ網と呼ぶ)については,ゴルジ体とは独立した別個の細胞小器官と考えた方がよいという考え方が浮上している。ゴルジ体の層板内を徐々に進行してきた積み荷タンパク質は,一旦TGNに到達した後,さまざまな目的地ごとに選別される。TGNがそこで果たす機能はきわめて多様であり,専門化した選別ステーションと考えるべきではないかというものである。驚くべきことに,TGNは植物では初期エンドソーム(early endosomes)としての機能ももつことが明らかになり,再循環エンドソーム(recycling endosomes)ときわめて近い役割をもつことも示されつつある。今後の研究の進展に目が離せない区画である。