オルガネラ・細胞内輸送関連
中野 明彦東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻
原形質はprotoplasm,後形質はmetaplasm。前者は細胞の中の「生きている」部分,後者は原形質の活動によって後から作られた「生きていない」部分,というのがもともとの定義であった。後形質としては,たとえば植物の細胞壁や液胞がそうであるとされたが,今となってはこれが全くナンセンスであるのは明らかだろう。細胞壁や液胞も立派な生命活動の場なのだから。顕微鏡による細胞内微細構造の知識もなかった時代に使われた言葉であり,今では死語となったと考えるべきである。しかし,その派生語としては現在も使われるものが少なくない。たとえば,原形質流動(cytoplasmic streaming),原形質連絡(plasmodesmata),原形質糸(transvacuolar strands)など,植物分野でよく生き残っているように思われる。ただ,これも英語の方を見てもらえばわかるように,protoplasmという表現はもうほとんど使われていない。唯一,英語でもなごりが残るのがprotoplastsという言葉。プロトプラストとは,細胞壁を酵素処理して除き,細胞膜が露出した状態の細胞のことであり,これは現在でも頻繁に使われる。酵母では,同様に細胞壁を除いた細胞のことをスフェロプラストと呼ぶが,これは酵素処理しても細胞壁成分が完全には除き切れていないから。