オルガネラ・細胞内輸送関連
中野 明彦東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻
これも前項と同様,歴史と共に意味合いが変遷してきている。細胞質(cytoplasm)は,細胞のうち細胞核を除いた部分,というのがもともとの定義である。したがって,本来の意味では,核以外の細胞小器官は全て含まれることになる。しかし,これも電子顕微鏡以前の定義であり,複雑な細胞内の微細構造が理解されるようになった今,核以外を全て一緒くたにして考えるというのは,あまり効率のよい話ではない。細胞質から細胞小器官や細胞骨格などの大型の構造を除いた,可溶性の部分のことを細胞質基質(cytosol)と呼ぶが,これも,リボソームやプロテオソームなどの巨大な分子複合体が含まれるのかどうかというと,結構微妙なことになってくる。ミクロソームが,超遠心ではじめて沈殿する膜分画と定義されたように,それでも沈殿しない画分をサイトゾルと定義してしまえば,ある意味すっきりするのかもしれない。現在では,cytoplasmicとcytosolicという2つの言葉はしばしば同様の意味に用いられている。本来の定義からするとけしからぬことかもしれないが,混乱のない限りやむを得ない流れなのかもしれない。一方で,細胞小器官を含む細胞質という概念も,細胞質遺伝(ミトコンドリアゲノムおよび葉緑体ゲノムが支配する遺伝様式のこと)という言葉でしっかり残っているので,場合によっては十分な注意が必要である。