吉村 信一郎
大阪大学医学系研究科細胞生物学教室
概要・原理
固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(Immobilized Metal Chromatography(IMAC) )はポリヒスチジンタグ(通常は6XHisタグ)を融合した組み換えタンパク質の精製に用いられる方法である。これはヒスチジンが中性付近のpHでコバルトや亜鉛、ニッケルといった2価の陽イオンと結合する性質を利用している。一度結合金属に結合したタンパク質は低pH条件のバッファーやEDTAやimidazole存在下のバッファーで容易に溶出出来る。大量の細胞抽出液からワンステップで高量の目的の組み換えタンパク質を精製出来るため、多くの研究室で最も簡便なタンパク質精製法として用いられている。ここで紹介している大腸菌由来の他、バキュロウィルスを用いた昆虫細胞での大量発現系と組み合わせた方法においてもよく用いられる方法である。
装置・器具・試薬
バッファー
IMAC5: 20 mM Tris-HCl pH 8.0, 300 mM NaCl, 5 mM Imidazole.
IMAC20: 20 mM Tris-HCl pH 8.0, 300 mM NaCl, 20 mM Imidazole
IMAC20(TX): IMAC20, 0.1% TX100
IMAC200: 20 mM Tris-HCl pH 8.0, 300 mM NaCl, 200 mM Imidazole
これらのバッファーは精製に先立ち調製し、 4°Cで保存しておく。
詳細
- 単一コロニーを 25-100 ml のLB培地(100 µg/ml Ampicillin, 30 µg/ml Kanamycin, 34 µg/ml chloramphenicol等の適切な抗生物質を含む)に入れ、37 °Cで一晩培養
- 翌朝一晩培養した溶液より25 ml を取り 1lの抗生物質入りのLB培地に入れ、37 °Cで培養。
- OD600 を0.5-0.6 ユニットになるまで30-60 分ごとに測定する。 大腸菌株あるいは発現させるタンパク質によって異なるがだいたい2.5時間から6 時間かかる。
- IPTG を0.1-0.5 mMの濃度になるように入れる。IPTGを入れた状態で 37 °C で3 時間から4時間培養。発現させるタンパク質によっては可溶性度を上げるために さらに低い温度(例えば30°C以下 )で6-18 時間培養する。
- 大腸菌体を 遠心( 3,000 Xg 、20 分, 4°C)にて回収。 上清を捨てる。【fig.1】【fig.2】
- 培養1 lあたり10 mlの lysis バッファー (IMAC5 に 0.5 mg/ml リゾチーム およびプロテアーゼインヒビターカクテルを加えたもの)で菌体を懸濁。懸濁溶液を50mlのコニカルチューブに移す。37°Cで20分振盪。 チューブを氷に差し、超音波破砕を30 秒 【fig.3】、休み30 秒を 4回繰り返す(DNAを破砕する目的)。20µl をSDS-PAGEのために取っておく。
- 遠心( 13,000 Xg 30分 4°C)で 細胞残渣を落とす。 上清を別のチューブに移す。上清から20µl 分を取っておく。
- 1l培養分0.5 ml の Ni+-NTA-agarose を1回IMAC5で洗い、7.の上清に加える。4°C で60-120 分撹拌し、【fig.4】Hisタグタンパク質をNi+-NTA-agaroseに結合させる。
- カラムに移し、ビーズを3 回10 ml のIMAC20TXで洗う。【fig.5】ビーズに結合していない上清および最初の洗浄フラクションより20µl 分を取っておく。
- 0.5-1mlのIMAC200で結合タンパク質を溶出する。【fig.6】これを10から20フラクション回収。
- 各ステップより分取したサンプル、および最後の溶出画分を10µlずつSDS-PAGE、CBB染色で確認する。
工夫とコツ
溶出タンパク質を特定のフラクションにより濃度を濃く得たい場合(このプロトコルではピークは大体No.2からNo.4に来る)、カラムの出口に栓をして、溶出バッファーをビーズに加えて1-2分待って栓を開き溶出するとよい。; 溶出したタンパク質はかならず透析や脱塩を行ってイミダゾールを除く。イミダゾール存在下でタンパク質を凍結保存すると融解後にタンパク質が析出する 場合がある。
参考文献
QIAexpress Ni-NTA Fast-Start Handbook
Yoshimura S, Haas AK, Barr FA. Methods Enzymol. 2008;439:353-64.