井上信也博士は、化学固定した細胞でしか観察されていなかった細胞分裂の過程を、自身で改良した偏光顕微鏡(”Shinya-scope”)を用いて観察した。その結果それまで見ることができなかった生きた細胞の有糸分裂の紡錘糸が見えるようになった。さらに、紡錘糸が「脱重合することによって」染色体を極に引っ張ることを示した。この観察は紡錘糸の本体である微小管の発見や、その試験管内での重合・脱重合の再現よりもはるかに早く行なわれた。
井上博士はさらに光学顕微鏡にVideo-enhancement の技術を取り入れ、微弱な蛍光や顕微鏡の分解能より小さい物体の可視化にも成功した。この技術を利用して神経軸索内輸送の可視化やさらにはモータータンパク質kinesin の発見が可能になるなど細胞構造のダイナミクス解明への貢献は計り知れない。また3 次元イメージの構築やin vitro motility assay のような分子運動の記録も可能になった。彼はさらに、遠心顕微鏡と偏光・蛍光観察をドッキングさせたCentrifuge polarizing microscope を開発し、細胞内構造の働きの観察に新たな手法を提供している。これらの優れた業績により2003 年度の国際生物学賞を受賞された。
(井上博士は今回が最後の来日と考えられているようです。ぜひとも多くの方々に講演を聴いていただきたいと考えています。)
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講師
井上信也博士
Distinguished Scientist
Marine Biological Laboratory, Woods Hole, MA, USA
演題
How do Living Cells Divide?
「生きた細胞に聞く細胞分裂のカラクリ」
日時
4月5日(月)午後4時〜5時
場所
学習院大学 西2 号館302 号室(目白駅より徒歩3 分)
連絡先
馬渕一誠 issei.mabuchi@gakushuin.ac.jp