細谷 浩史広島大学理学部生物科学
広島大学のある東広島市西条には,ため池が多く,ミドリゾウリムシという緑色のゾウリムシがよく見つかります。このゾウリムシには,体内にクロレラに似た共生藻が多数共生していて,面白いことに,ゾウリムシ一匹当たりの共生藻の数はどれもほぼ一定です。これは,どうしてだろうか。ゾウリムシが,体内の共生藻の分裂をコントロールしているのだろうか。体内にいる共生藻はどれも同じ種類なのだろうか。ミドリゾウリムシだって分裂するのだから,その分裂と共生藻の分裂は連携(同調)しているのだろうか。いくつもの疑問がわいてきます。
そこで,共生藻を持たない“白い”ミドリゾウリムシを作製し,一方,クローン化した共生藻をそれに共生させてもとのミドリゾウリムシを作製できる系を確立したいと考えました。文献を調べると,ミドリゾウリムシを長期間暗黒下で飼うと,共生藻が居なくなって白いミドリゾウリムシが出来ると書いてあります。早速研究室で実験してみると,体内の共生菌数は減少しても,いつまでたっても「居なくなる」ことはありません。餌を大量に与えてミドリゾウリムシを急激に増殖させ,そのうち共生藻の分裂が追いつかなくなって白いミドリゾウリムシができると書いてある論文もありました。この場合でも,実験をやってみると,白いミドリゾウリムシは出来ないばかりか,かれらの老化が始まって分裂能力の劣る個体が出現してくる始末です。
しばらくして,「植物」である共生藻を除くのだから,除草剤を使えばいいのではというアイデアがわきました。幾度もの試行錯誤の末,代表的な除草剤の一種である「パラコート」でミドリゾウリムシを処理すると,共生藻が完全に取り除ける事が明らかになりました。
次に,共生藻のクローン化を試みることにしました。ミドリゾウリムシを破砕し,寒天培地に塗り付けてしばらくたつと,バクテリアやカビ(=ミドリゾウリムシの食物)などが急激に繁殖し,幾多ものコロニーを形成します。色とりどりの寒天培地をよく見ると,いくつかの小さな緑色のコロニーが出来ていることに気づきました。顕微鏡でよく見ると,これは共生藻のコロニーでした。バクテリアを増やさずに共生藻の生育をよくする条件,これがこの実験のポイントに違いありません。幾度もの試行錯誤の未,クローン化した複数の共生藻を得る事が出来ました。
これらの共生藻を白いミドリゾウリムシに食べさせると,共生藻はまず食胞にとりこまれ,消化を免れた少数の共生藻がいつまでもミドリゾウリムシ体内に残っていることがわかりました。このミドリゾウリムシを飼い続けても,共生藻は体内でなくなりません。それどころか,体内で増え続け,もともとの共生藻濃度でその増殖をストップすることがわかりました。
私たちは,現在,「共生藻の再共生系が確立できたのでは」と考えています。今後,この系を使って,共生藻がどの様なメカニズムで“感染”し,ミドリゾウリムシ体内で細胞分裂がコントロールされているのか明らかにしたいと思っています。過去の論文の追試がうまく行かなかったのは,使ったミドリゾウリムシの株が我々と彼らで異なっていたからかもしれません。また,パラコート処理が白いミドリゾウリムシになんらかの影響を与えてしまっているかもしれません。また,私たちの研究室で主として使用しているヒーラ細胞などに比べ,細胞分裂の研究をする上では,はっきりしたデータがでない材料なのかもしれません。それでも,これらの成果が手がかりとなり,新しい視点から細胞分裂の謎解きに少しでも貢献できたらいいなと考えています。