茂木 文夫Johns Hopkins University School of Medicine, HHMI
先日行われた第62回細胞生物学会大会で若手最優秀発表賞を頂いたことの副賞として(恐れ多くも憧れの!)巻頭言を書く機会を与えて頂きました。巻頭言執筆の機会は素直に嬉しかったものの、経験の浅い自分が何を書けるものか悩みましたが、現在進行形のポスドク留学で最も印象に残った経験を書いてみたいと思います。
「十中八九当たらない仮説から先に挑戦」
留学先の研究室で実験を始めたものの、当初のテーマでは期待したような結果は出ず 、この期間はボスとのディスカッションを毎週末の義務にしていました。議論好きのボスとは、双方意見を言い合いつくすブレインストーミングに時間を割くことも多々あり、時に根拠の無いボスの大仮説に納得いかないこともあり、あれこれと机で悩む研究スタイルを不思議だと感じていました。次第に、自分は細胞の観察を通して面白い現象やそれに関与する遺伝子を探索する“ボトムアップ型”のサイエンスを、 留学先のボスは最初から大胆な仮説を提唱・検証していく“トップダウン型”のサイエンスを信条としていることが理解できてきました。珠玉のような「面白い真実」を発見するために、十中八九当たらないような仮説を考え、ハイリスクの仮説から優先して検証する、というボスの方針が理解できて、ようやく研究スタイルの違いを納得できるようになりました。このトップダウン型のサイエンス、いざ自分で挑戦するとなると、自分が考える大仮説は面白くないか九分九厘当たらないもので(涙)、「作業仮説は十中八九外れて当然」と言い訳しつつ、未だ妄想に頭を悩ませる毎日を過ごしています。自分の学んだ現実的な処世術は、サイエンスは楽観的でないとやってられないということでしょうか。 論文を読むだけでは分からなかった研究スタイルを理解し消化することで、トップダウンとボトムアップの良いところを取り入れた、自分の研究スタイルを再構築できたらと思っています。
細胞生物学会大会はこれまでに、完全英語化、海外からの若手研究者の招聘、若手最優秀発表賞など、 先駆的な「実験」をトップダウン形式 で展開しているところが、特筆すべき魅力だと思います。一方、大会の運営にボトムアップ形式で提案する余地が無いことは、学会の規模から考えて仕方のないことかもしれません。この場を借りまして 末端の学会員からも僭越ながら普段感じていることを幾つか提案してみたいと思います。
1)提案型のワーキンググループを設置:短い時間編成でもよいのですが、 ワーキンググループを提案できる機会があると、新たな分野や小スケールの分野の研究者も意欲が湧くと思います。
2)若手発表賞以外にも学会賞を: 学会中にポスター発表の審査・選考を行うと、ポスター制作及び当日の議論もいっそう盛り上がるのではないでしょうか。また、新たに独立した研究者を対象としたキャリアアワードなども、若手研究者の支援につながると期待します。さらに、細胞生物学の特徴でもある美しい画像やムービーを募集して学会中に展示し、学会員の投票で最優秀賞を選考するのはいかがでしょうか。
3)学会会員によるフィードバックの機会を:学会ホームページの掲示板などで、学会大会の感想・改善点について議論できると嬉しいです。学会運営では「 十中八九当たらない」実験はできないかもしれませんが、細胞生物学会は今後も先駆的なチャレンジを続ける魅力的な学会であってほしく、学会大会を更に魅力あるよう進化させるために、学会員からもボトムアップで貢献できる機会があるよう期待します。