一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

Vol.20 September & October (1) CSFにかける野望

木村 宏 (大阪大学生命機能研究科)

 先日、ありがたいことにCell Structure and Function(CSF)の論文賞をいただきました。賞の対象になったのは、「特異的モノクローナル抗体を用いたヒストンH3修飾の解析」という Methods paperとしての意味合いが強いものでした。この論文をCSFに投稿するにあたって、密かに期待していたことがあります。それは、論文で発表したモノクローナル抗体を多くの研究者に使ってもらうことで、論文の引用回数があがり、ひいてはCSFのインパクトファクターを押し上げることにつながるのではないかということでした。私はインパクトファクターの崇拝者ではありませんが、世の中がそれを評価基準にしているならば、仕方がありません。ならば、自らの論文でわれらがCSFの評価を変えようではありませんか。CSFに掲載される論文は年間20本程度ですから、一つの論文が年間20回引用されると、それだけでインパクトファクターが1上がることになります。100回引用されると5も上がります。

 ヒストン修飾は遺伝子の発現制御などに重要な役割を果たすことが分かってきており、その解析には修飾特異的抗体がよく用いられます。ところが、市販の抗体はほとんどがポリクローナル抗体でロット間差や特異性に問題があることが多く、私達はより信頼性の高いヒストン修飾モノクローナル抗体を作製しました。論文発表後、確かに、それなりに抗体のリクエストは来ましたし、また一部の方々には発表前から配っていたので、現在多くの研究者が抗体を使ってくれています。ところが、期待に反して、それがすぐには引用件数の増加にはつながっていないようです。それは、材料や方法というものは、それらを使った結果が出て初めて論文になるわけで、論文を読んですぐに引用ということにはならないせいでもあると、遅まきながら気づきました。重要な発見を示した論文が、即引用されるのと対象的です。(この話を共同研究者にしたところ、「まず自分達で、抗体を使った論文をせっせと発表して引用すべきでは?」と厳しいコメントでしたが、まさしくその通りです…。)

 また、上記で、抗体のリクエストは「それなりに」あったと書きましたが、実はリクエストの数は予想していたよりもはるかに少ないものでした。リクエストの中には、論文をきちんと読んでいないことが分かる(アブストラクトだけで判断したと思われる)ものも多くありました。ですから、オンライン化で、誰でもアクセスできるようになったとは言っても、実際はあまり読んでくれないようです。論文自身に魅力が無いせいかもしれませんが、発表した雑誌による先入観のようなものもあると思います。昨今の激しい競争のなか、いわゆるCNS(Cell, Nature, Science)あるいはインパクトファクター至上主義のような傾向が、特に激しくなっているように感じます。

 確かに、high journalには良い論文がたくさん掲載されていますが、良い雑誌に掲載されたからといって後生に残る良い仕事とは限りません。ただ、人事や研究費の審査をする方々も多忙化のため、論文の中身を一つひとつ吟味する時間はなく、掲載誌によって判断する他ないのかもとは思います。ですから、我々もより高い雑誌に掲載されるよう努力するわけですが。ただ、私のようなひねくれものは、どうもこのシステムに組み込まれるのに抵抗感があり、なんとか一泡ふかせることができないか考えています。次なるCSFのインパクトファクター上昇作戦は総説を発表することですが、いつの日か、即引用されるような重要な発見を発表して、CSFの発展に貢献できればと思います。


(2009-10-16)

日本細胞生物学会賛助会員

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