一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

細胞生物学用語集【I-L】

【I】

隔離膜
【isolation membrane 】
田端 桂介
大阪大学大学院医学系研究科遺伝学教室
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隔離膜とは、オートファゴソーム形成前に出来てくる扁平な膜構造体のことである。 Atg5-Atg12-Atg16L複合体が隔離膜上に局在するが、閉じた構造のオートファゴソームになると複合体は解離する。そのためAtg5-Atg12-Atg16L複合体は隔離膜のマーカータンパク質として顕微鏡観察で使用される。隔離膜形成については参考文献中にあるように、小胞体(ER)と一部が連結している様子が観察されている。
参考文献
Hayashi-Nishimo M et al., Nature Cell Biol. 11, 1433-1437, 2009

細胞内アクチン濃度
【The intracellular actin concentration】
木内 泰
東北大学大学院生命科学研究科
ほとんどの真核細胞でアクチンは最も大量に存在するタンパク質で、その濃度は数百μMに達する。単量体アクチン(G-アクチン)とアクチン線維(F-アクチン)はおよそ1対1の比率で存在する。G-アクチンが重合しないで存在できる臨界濃度は0.1μMと低く、細胞質のG-アクチンはサイモシンβ4ファミリーを中心とする隔離タンパク質が結合することで重合が抑制されている。G-アクチンは、ADF/コフィリンによるF-アクチンの切断・脱重合によって細胞質にADP-G-アクチンとして放出され、プロフィリンによってADPがATPに交換されATP-G-アクチンとなり、再び重合に使われる。細胞質で他のタンパク質と結合していないG-アクチンやプロフィリンと結合しているG-アクチンは重合可能で、それらの濃度は細胞内でのアクチン重合速度を決定する重要な因子である。細胞質G-アクチンの大半は重合できないサイモシンβ4結合型G-アクチンであり、G-アクチンとサイモシンβ4が結合・解離を繰り返す平衡状態にある。細胞が外的刺激を受けアクチン重合が促進された場合、この平衡は解離側に動いて、大量に存在するサイモシンβ4結合型G-アクチンプールからG-アクチンが供給され、アクチン重合に使われる。このように細胞は、G-アクチンを高い濃度に保つことで刺激に応じた素早いアクチン重合を引き起こすことができる。最近開発されたs-FDAP法によって、細胞内でのG-アクチン濃度の経時的、空間的な変化が詳細に測定できるようになった。
参考文献

中間区画
【intermediate compartment】
中野 明彦
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻
基本的に,さまざまな輸送の過程で中間区画を考えることが可能であるが,単にこう呼ぶと,小胞体からゴルジ体への輸送の中間区画(ER-Golgi intermediate compartment: ERGIC, あるいは単にIC)を指すことが多い。形態的な特長からTVC(tubulovesicular clusters)と呼ぶこともある。明確に定義されるのは哺乳動物をはじめとする脊椎動物の細胞で,ゴルジ体が核近傍,中心体周辺に巨大なゴルジリボン(Golgi ribbon)と呼ばれる構造を形成する場合である。細胞中に広がる小胞体のネットワークから,直接このゴルジリボンへの輸送が起こるのではなく,細胞辺縁部にも存在する中間区画がまずはゴルジ体行きの積み荷を集め,それからゴルジリボンへと移行させていく。酵母や植物,無脊椎動物では,このような形での中間区画は存在しない。これらの生物種では,ゴルジ体がリボン構造を形成せず,個々に独立したゴルジ層板が多数細胞質中に広がるため,中間区画を経由しなくても小胞体からゴルジ体への直接の輸送が可能であるためではないかと考えられる。したがって,中間区画は一種の幼若なゴルジ体であると考えることも可能である。一方,哺乳動物の中間区画には小胞体ともゴルジ体とも異なる独自の機能が存在し,進化の過程で新たな機能を獲得したという考え方もある。

中間径フィラメント(中間径繊維)
【Intermediate filaments (IFs)】
猪子 誠人・稲垣 昌樹 
愛知県がんセンター発がん制御研究部
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 中間径フィラメント(fig1)は、アクチン繊維、微小管とならび細胞骨格を構成する主要3繊維の一つである。その名は、筋組織の電子顕微鏡観察においてミオシンIIの太いフィラメントとアクチンの細いフィラメントの中間の太さを示したことに由来するが(石川春律博士ら、文献1)、その太さ(10nm)はアクチン繊維と微小管の中間でもある。特徴として、これら3つの繊維の中では生化学的に最も溶けにくく、物理的には最も引っ張りに強い。そのため、細胞に機械的強度を付与していると考えられ、このことは変異動物や遺伝学の解析結果からも裏付けられている(教科書1, 2; 総説1; 以下同様)。
 このような強い繊維構造は構成蛋白質同士が重合することによって構築される。その種類は複数あり、それぞれの相同性も互換性も低いが、構造的な類似によってフィラメント自体は同じサイズの似た性質となる。つまり、基本構造は長い棒状ドメイン(rod)とそれを挟む頭部(head)・尾部(tail)からなり、また重合に寄与する配列には保存性がある。
 中間径フィラメントの種類についてみると、無脊椎動物にも類縁は存在するが少ない。一方、高等脊椎動物は中間径フィラメント構成蛋白質の種類が最も多く複雑である。それらは6つのグループに分けられ、重合できるグループは決まっている。さらにその発現に厳密な組織特異性が見られる。すなわち、ケラチン(keratin)は上皮細胞に、ビメンチン(vimentin)は結合組織細胞に、デスミン(desmin)は筋細胞に、GFAP (glial fibrillary acidic protein)はグリア細胞にそれぞれ発現する。 この特性は、医学領域においては腫瘍の分化マーカーとして利用されている。これを細胞生物学的に詳しく見れば、上皮の中間径フィラメントとしてのケラチンの特異性は高いが、そのサブタイプは20を超える。また、神経、筋、結合組織ではビメンチンをはじめ重なり合って発現する他の蛋白質がいくつかある。この冗長性が、中間径フィラメントの機能解析を困難にしている。
 しかし近年の実験技術や遺伝子工学の進展により、各中間径フィラメントに特異的に結合する蛋白質が同定されるようになってきた。その中には、細胞種特異的な機能とよく相関を示すものがある(総説1, 2; 文献2, 3, 3', 4, 4'; 中間径フィラメント結合蛋白質の項も参照)。このことから、中間径フィラメントはこれら結合蛋白質にとっての足場(scaffold)でもあり、高等脊椎動物にみられる細胞種特異的な発現は、それぞれの細胞特性の付与に貢献しているのではないかと考えられるようになり、新たな注目を集めている。
参考文献

中間径フィラメント結合蛋白質
【IF-associated proteins】
猪子 誠人・稲垣 昌樹 
愛知県がんセンター発がん制御研究部
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 中間径フィラメント(中間径繊維と同義)に結合する蛋白質。アクチン繊維や微小管の結合蛋白質と同様、繊維構造の安定化や架橋をすることで調節的に働くものがある一方で、やや趣を異にするものがある。それは細胞種固有の機能に大きく関与するものである(総説1-5)。
 例えば、ケラチン(keratin)は上皮特異的な中間径フィラメントである(中間径フィラメントの項を参照)が、実はアポトーシス(apoptosis)に関わる蛋白質を結合させることで、そのシグナルの減弱に寄与している(文献1)。また、ケラチン17(keratin17)は創傷など増殖状態にある表皮で発現するケラチンであるが、これが14-3-3σを結合させて、蛋白質の生合成を促進させていることが明らかとなっている(文献2)。また、アルバトロス(Albatross)は上皮細胞の極性化に寄与する新規蛋白質であるが、ケラチンはこの蛋白質に結合し、これを安定化することで上皮分化に促進的に働くことが示された(文献3, 3')。
 このように、中間径フィラメントが足場(scaffold)となることで、細胞種固有の機能に貢献していることがわかってきた。つまり、中間径フィラメント構成蛋白質が顕著な組織特異的発現を示すのには意味があると思われる。特にケラチンはがんの発生母地である上皮に特異的に発現しているため、結合蛋白質の同定により上皮機能との関与を新たに探す試みは、対極にあるがん化の新規メカニズムの発見にもつながることから、医学的にも重要であると思われる(リンク1, 2)。

参考文献
総説1) Fuchs E, Cleveland DW. Science. 1998 Jan 23;279(5350):514-9.
総説2) Coulombe PA, Wong P. Nat Cell Biol. 2004 Aug;6(8):699-706.
総説3) Izawa I, Inagaki M. Cancer Sci. 2006 Mar;97(3):167-74.
総説4) 井澤一郎・稲垣昌樹, 中間径フィラメントの構築制御とシグナルクロストーク, 形と運動を司る細胞のダイナミクス・実験医学・2006増刊 (竹縄忠臣・遠藤剛 編), 58-63

総説5) 猪子誠人・後藤英仁, 中間径フィラメントの構築制御機構と細胞内機能, 細胞骨格と接着・蛋白質核酸酵素・2006年5月号増刊 (貝淵弘三・稲垣昌樹・佐邊壽孝・松崎文雄 編), 51, 551-558, 2006

文献1) Inada H, Izawa I, Nishizawa M, Fujita E, Kiyono T, Takahashi T, Momoi T, Inagaki M. J Cell Biol. 2001 Oct 29;155(3):415-26.
文献2) Kim S, Wong P, Coulombe PA. Nature. 2006 May 18;441(7091):362-5.
文献3) Sugimoto M, Inoko A, et al. J Cell Biol. 2008 Oct 6;183(1):19-28.
文献3') "Research Highlight" Nat Rev Mol Cell Biol. 2008 Nov;9:825
リンク1) 愛知県がんセンター研究所・発がん制御研究部(稲垣昌樹研究室)
リンク2) 名古屋大学グローバルCOEプログラム

【J】

ジャスプラキノライド
【jasplakinolide】
渡邊 直樹
東北大学 大学院生命科学研究科
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 Jasplakinolideは、海綿(Jaspis johnstoni)から単離された環状ペプチドである。アクチン線維の脱重合を阻害する。ファロイジンのアクチン線維への結合と競合する。ファロイジンなどの他のアクチン脱重合阻害薬とは異なり、細胞透過性があるため、生細胞内でのアクチン脱重合阻害薬として広く使用される。特に、ある細胞機能がアクチン重合-脱重合のダイナミクスに依存するか否かを検証するために頻用される。インビトロでは、ファロイジンとは違いアクチンの重合核形成を著明に促進し、伸長速度も2倍程度まで加速する。細胞に用いた場合、1〜3分でアクチン脱重合の阻害と単量体アクチンプールの減少が観察される。また、アクチン脱重合因子コフィリンやそのコファクターであるAIP1のアクチン線維への結合を阻害する。
参考文献

【L】

ラトルンキュリン
【latrunculin】
渡邊 直樹
東北大学 大学院生命科学研究科
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 その体液が魚類に強い毒性を示す海綿(Latrunculia magnifica)から単離された化合物で、latrunculin AとBがある。単量体アクチンのATP結合部位近傍に結合(解離定数、0.2~0.4 μM)し、重合を阻害する。さまざまな細胞機能についてアクチン依存性の有無を検証するために用いられ、広く普及する化合物である。ただし、細胞に低濃度で使用すると、薬剤のもつ本来の作用に反して遊離単量体アクチン濃度を上昇させる‘latrunculin paradox’と呼ばれる効果が予測、報告されている。
参考文献

腸管ループアッセイ
【ligated intestinal loop assay】
大野 博司
理化学研究所・横浜研究所 免疫アレルギー科学総合研究センター(RCAI)
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麻酔下の実験動物を用いて、生体組織の応答を、直接的に観察する実験手法。主に、パイエル板を含む小腸で行われる。まず、小腸のパイエル板を含む部分の両端を結紮し、生体条件に近い状態の閉空間を作る。この閉空間に試薬や菌液を充填し、組織との作用を観察する。組織が生きた状態でしか見られない応答(エンドサイトーシス等(1))を観察するのに適した手法である。
参考文献
(1)Hase, et al. nature (2009)

内腔
【lumen】
中野 明彦
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻
「ないこう」と読むのが正しいが「ないくう」でも通じる。英語ではlumen。細胞小器官のさらに内側の空間を指す。細胞質(cytoplasm)と膜を隔てて反対側,つまりトポロジーの上では細胞外と同等であり,実際,膜交通によって連絡可能である。それを意識して,exoplasmicあるいはectoplasmic spaceと呼ぶこともある。ただし,ectoplasmと言うとオカルト映画のおどろおどろしいものと同じになるので注意。ミトコンドリアや葉緑体など,細胞内共生に由来する複膜系の細胞小器官では,外膜と内膜に挟まれた膜間腔(intermembrane space)が同じトポロジーとなる。

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