東山 哲也東京大学 大学院理学系研究科
高校生たちの前で話すとき、よく考えることがあります。生物学のロマンは何だろうと。物理や天文の分野では、「ダークマター」や「地球外生命」など、一言で高校生の好奇心をつかむテーマがよく掲げられます。それらは未知であり、想像を掻き立てます。「脳」は、それらに近いかも知れませんが、もっと私のトークに近い内容ではどうなのだろうと。石谷さんが2023年の巻頭言で書いているように、ロマンは研究の動機にも大切です。
よい言葉は見つけられていないのですが、私はヒトの脳も含めた進化が、生物学のロマンだと思っています。誰かが一生懸命に開発するでもなく、ビックリするような生物や生命現象が誕生してきました。ただし、私の視点は単にビックリ生物にある訳ではありません。私の視点、そしておそらく多くの会員の皆さんの視点も近いと思うのですが、それはビックリ生物の誕生も可能にする「細胞」の進化です。40億年前ごろに誕生した一種の細胞から、途切れることなく分裂によって現在へと続く細胞。それらが「進化」と呼ばれる仕組みにより、あの手この手(細胞内共生や有性生殖などの飛び道具を含む)で生物と生命現象を生み出しているところにロマンを感じます。「そこまでやるか!」と。
そして進化はもちろん現在も進行中で、過去のことだけでなく未来についても、未知で、想像を掻き立てます。過去の40億年は、超大陸が何度か繰り返すほど、途方もなく長い時間です。ある宇宙物理学の先生が、次のような趣旨のことを言っていました。「お風呂に垂らした一滴の墨汁が再び一点に集まることが、膨大な時間のなかでは絶対に無いとは言えない。まるでそうした事象を生物の進化には感じる。」
細胞の進化にロマンを感じる私は、細胞の起源・共通原理にも、高次生命現象にも、興味があります。むしろそれらの両輪がないと、ちょっと物足りなさを感じます。前所属の名古屋大学時代をともに過ごした五島さんの、鳥羽にある臨海実験所でエキサイティングな日々を過ごしているという前号の巻頭言を楽しく拝見しました。さすが五島さんと思いつつ、共感を覚えます。
私は植物を主な材料に研究をしていますが、基本的には細胞が好きです。このため、実は生物種を限定するのは好きではなく、多くの生物種を扱うほうが楽しいです。細胞生物学会は「細胞」をキーワードに感動を共有できるので、長らく気に入って参加しております。そんな私が、水島会長から2027年の細胞生物学会の大会長を仰せつかりました。
コミュニケーションの多さと深さが細胞生物学会の特徴と思っています。その盛り上がりを考え、新潟の朱鷺メッセで開催する計画です。①コンパクトな地方都市でありながら国内各地からのアクセスが良い、②会場と宿泊が一体化していてそこに宿泊する場合もホテル代が比較的安い、③会場近くのピアBandaiを含め食べても飲んでも最高のお店が多いなど、魅力が溢れます。今年の名古屋、来年の札幌に続き、ぜひ新潟も楽しみにしていただければと思います。
最近やけに忙しくありませんか? ぜひ新潟で、皆でゆったりと至福のサイエンスと食事・お酒を楽しみながら、ロマン探しをしませんか?