北尻 真一郎 京都大学医学部附属病院耳鼻咽喉科
アクチン繊維の構造を制御する分子のひとつ。主にTRIOBP-1、TRIOBP-4、TRIOBP-5の3種類が存在する。TRIOBP-1はもともと、低分子量Gタンパク(本用語集を参照)の活性に関わるTrioというGEF(本用語集を参照)の結合相手として同定されたもので、全身で発現しており、その変異マウスは胎生致死である。一方TRIOBP-4やTRIOBP-5は、ヒト遺伝性難聴家系から同定されたものであり、内耳・眼球・神経系での発現が確認されている。つまりTRIOBP-4およびTRIOBP-5に変異があると難聴をきたす訳である。TRIOBP-4はTRIOBP-1と異なり、低分子量Gタンパクが存在しなくても、TRIOBP-4単独でアクチン繊維を束ねる活性を持つ。TRIOBP-4/5のノックアウトマウスでは、有毛細胞の不動毛(本用語集「有毛細胞と難聴」の稿を参照)の根が形成されず、不動毛が変性して難聴を引き起こしていた。不動毛およびその根はアクチン繊維の束で構成されるため、TRIOBPによるアクチン繊維の束化が不動毛の形態維持に必要であり、その機能欠損が難聴の原因と考えられる。
参考文献
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