岡本 仁慶應義塾大学医学部生理学教室
子供(息子)を持ったことで,私の楽しみが一つ増えた。彼と一緒に,堂々とデパートのオモチャ売り場に出入りできるようになった。今では,疑いもなくパパ印なお腹のおかげで,一人でもスタスタと入って行ける。時には,売り場のお姉さんに,親切な笑顔で説明してもらえるのだが,それは本質ではない!彼と私とが一番好きなのは,色とりどりのブロックを組み合わせて,なんでも作れるという例のオモチャだ。最近のは随分と凝っていて,(そのせいでお値段も随分張るので,結局見本で遊ぶだけでいつも終わるのだが,)モーターユニットやギヤーユニットも付いていて,組み合わせて行けば,自動車でもクレーンでも怪獣でも,何でも作ることが出来る。私が,どの組み立てブロックセットを買うかどうかを決めるとすれば,一番考えるのは,出来上がった特定の怪獣のカッコよさではなくて,セットのモーターユニットやギヤーセットなどの駆動ユニットでどれだけ多様な物が作られるか,それらの汎用性だろう。
私は,進化に関して全くの素人であるが,動物の進化の歴史では,私達がオモチャ売り場でやっていたのと同じ様に,いろいろなモデルをやたら滅多ら作っては壊していた時期があったそうだ。S.J.Gouldのワンダフルライフという本を見てみると,造物主(自然)がどんなに遊び好きで,奇妙きてれつな生き物の試作品作りに或る時期熱中していたのかに驚かされる。自然は,それらのうちでほんの一部のみを現在の生き物の原型として残したのだが,その時も原型そのものの性能よりも,内蔵されている基本駆動ユニットの汎用性が選択基準として重視されたのではないだろうか。ホメオチック遺伝子群や,MAPキナーゼを含んだセカンドメッセンジャー系などは,それらに関わっている遺伝子群が一セットとして昆虫から哺乳動物まで保存され,個体発生の様々な場面で繰返し使われていることがわかってきている。我々生物は,選ばれた優秀な基本駆動ユニットを持つ同じ会社(地球ブランド)のブロックセットで作られているのかもしれない。だとすれば,現代の生物学の仕事は,基本駆動ユニットの仕組を知ることと,その組合せの妙を味わうことに分類されても良いと思う。この分類では,細胞という単位は,帯に短したすきに長し,となるが逆に言うと“細胞生物学会”は大にも小にも領域も拡張できるネーミングだといえる。
生物における優秀な駆動ユニットとは,将来の進化においても柔軟に対応できる汎用性の高い遺伝子群のことか?と,考えていると振り返って自分自信の研究でも,今不格好に見えても汎用性のあるパーツを含んだ結果を残して行きたいものだと思う。私自身,幼いころ積木を好んだ。お気に入りは,秘密要塞だった。ブロックを一つ押さえれば,堅固に見える要塞が,ガテガラと壊れるように,綿密に組み立てなければならなかった。気がつくと今でも,ブロックは遺伝子に変わったが,細工をしかけては爆発させて楽しんでいることには変わりがない。オモチャ売り場では,これからも子供からたくさん教わると思う。