猪子 誠人・稲垣 昌樹 愛知県がんセンター発がん制御研究部
中間径フィラメント(中間径繊維と同義)に結合する蛋白質。アクチン繊維や微小管の結合蛋白質と同様、繊維構造の安定化や架橋をすることで調節的に働くものがある一方で、やや趣を異にするものがある。それは細胞種固有の機能に大きく関与するものである(総説1-5)。 例えば、ケラチン(keratin)は上皮特異的な中間径フィラメントである(中間径フィラメントの項を参照)が、実はアポトーシス(apoptosis)に関わる蛋白質を結合させることで、そのシグナルの減弱に寄与している(文献1)。また、ケラチン17(keratin17)は創傷など増殖状態にある表皮で発現するケラチンであるが、これが14-3-3σを結合させて、蛋白質の生合成を促進させていることが明らかとなっている(文献2)。また、アルバトロス(Albatross)は上皮細胞の極性化に寄与する新規蛋白質であるが、ケラチンはこの蛋白質に結合し、これを安定化することで上皮分化に促進的に働くことが示された(文献3, 3’)。 このように、中間径フィラメントが足場(scaffold)となることで、細胞種固有の機能に貢献していることがわかってきた。つまり、中間径フィラメント構成蛋白質が顕著な組織特異的発現を示すのには意味があると思われる。特にケラチンはがんの発生母地である上皮に特異的に発現しているため、結合蛋白質の同定により上皮機能との関与を新たに探す試みは、対極にあるがん化の新規メカニズムの発見にもつながることから、医学的にも重要であると思われる(リンク1, 2)。
参考文献
総説1) Fuchs E, Cleveland DW. Science. 1998 Jan 23;279(5350):514-9.
総説2) Coulombe PA, Wong P. Nat Cell Biol. 2004 Aug;6(8):699-706.
総説3) Izawa I, Inagaki M. Cancer Sci. 2006 Mar;97(3):167-74.
総説4) 井澤一郎・稲垣昌樹, 中間径フィラメントの構築制御とシグナルクロストーク, 形と運動を司る細胞のダイナミクス・実験医学・2006増刊 (竹縄忠臣・遠藤剛 編), 58-63
総説5) 猪子誠人・後藤英仁, 中間径フィラメントの構築制御機構と細胞内機能, 細胞骨格と接着・蛋白質核酸酵素・2006年5月号増刊 (貝淵弘三・稲垣昌樹・佐邊壽孝・松崎文雄 編), 51, 551-558, 2006
文献1) Inada H, Izawa I, Nishizawa M, Fujita E, Kiyono T, Takahashi T, Momoi T, Inagaki M. J Cell Biol. 2001 Oct 29;155(3):415-26.
文献2) Kim S, Wong P, Coulombe PA. Nature. 2006 May 18;441(7091):362-5.
文献3) Sugimoto M, Inoko A, et al. J Cell Biol. 2008 Oct 6;183(1):19-28.
文献3′) “Research Highlight” Nat Rev Mol Cell Biol. 2008 Nov;9:825
リンク1) 愛知県がんセンター研究所・発がん制御研究部(稲垣昌樹研究室)
リンク2) 名古屋大学グローバルCOEプログラム