芳賀 永北海道大学大学院生命科学院

原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy; 以下 AFM)は、生体試料の表面形状を測定することができる装置である。AFMは電子顕微鏡とは異なり、試料の固定処理を必要とせず、タンパク質や細胞の3次元的な形状を培養環境下で直接観察することが可能である。 また、カンチレバーとよばれる板バネの先端に長さ数ミクロン程度の針がついた探針を試料表面に直接接触させながら形状測定を行うため、カンチレバーのなぞり方を工夫することで、試料の形状だけではなく力学的性質(弾性率や粘着力など)の計測が可能となる(図)。 現在、AFMを用いた弾性率測定の主流はコンタクトフォースモードと呼ばれる測定法である。コンタクトフォースモードとは、探針を試料に押し込むことでカンチレバーに発生する力と試料の変形量との関係(フォースカーブ)を測定し、試料の弾性率を定量的に計測する測定法である。例えば、測定領域を64×64ピクセルに分割して、各点でフォースカーブを取得し、ピクセルごとに得られた弾性率を画像化(マッピング)することで硬さの空間分布像を得ることができる。 また、タンパク質分子のN末端とC末端をそれぞれ基盤とカンチレバーに結合させ、両端を引っ張ることにより発生する力を計測することで、タンパク質分子の折り畳みエネルギーや分子内のドメイン構造に関する情報を得ることができる。 この他、試料表面の走査を高速化することで、タンパク質一分子の移動や形の変化をビデオレートでイメージングする技術も開発されている。
参考文献
H. Haga, et al. Ultramicroscopy, 82, 253-258 (2000)
A. Ikai, Biophys Chem, 116, 187-91 (2005)
T. Ando, Nanotechnology, 23, 062001 (2012)