岡田 康志理化学研究所 神戸研究所 生命システム研究センター(QBiC)
微小管切断因子(microtubule severing factor)とは、微小管を中途で切断する活性を持つ酵素である。椎名らの実験により細胞周期依存的な微小管切断活性の存在が示唆され、現在までに4種類の微小管切断酵素が同定されている。このうちEF1α以外の3種の蛋白は、膜輸送に関わるAAA蛋白VPS4と類縁で、katanin, spastin, fidgetin と名付けられている。このうちkataninは、分裂期細胞質中の微小管切断活性因子として同定され、日本語の刀に因んで命名された。Spastinおよびfidgetinは、それぞれ神経系の変異であるヒトの遺伝性痙性対麻痺(hereditary spastic paraplegia)およびマウスの自然変異体であるfidget(モジモジするという意味)の原因遺伝子として同定され、それぞれin vitroあるいはin vivoでの微小管切断活性が確認された。 変異体の解析により、これらの微小管切断因子は、細胞分裂における微小管の長さ・量の制御や、植物細胞の間期微小管の枝分かれ構造の形成・維持、線毛の調節、神経細胞での微小管の制御などの多様な機能を果たしていることが知られている。 VPS4自体には微小管切断活性は報告されていないが、リング状の12量体を形成して膜輸送蛋白複合体を解体する機能が知られている。リング状の6量体を形成するKataninやSpastinも、これと同様の機構で微小管を解体・切断すると提唱されている。
参考文献
Shiina et al., Microtubule-severing activity in M phase. Tr Cell Biol. (1995) 5: 283-286
Roll-Mecak and McNally. Microtubule-severing enzymes. Curr. Op. Cell Biol. (2010) 22: 96-103