久永 眞市首都大学東京 / 大学院・理工学研究科
微小管(microtubule)を組織(主に哺乳動物の脳)や細胞から、重合・脱重合を繰り返して単離した時に、微小管を構成するチューブリン(tubulin)とともに取れてくるタンパク質で、微小管の重合や安定化活性をもつ因子。最初に見つかった微小管結合タンパク質(MAP)のため、古典的(classical)と呼ばれている。また、酵素活性など持たず、微小管壁に結合して、微小管間の距離を調節することから、構造的(Structural)MAPとも呼ばれることもある。MAP1ファミリーとMAP2/MAP4/Tauファミリーからなる。MAP1ファミリーにはMAP1A、MAP1B、MAP1Sがある。MAP1AとMAP1Bは主に神経細胞で発現し、MAP1Bは発達期の神経細胞で特に軸索(axon)に存在し、MAP1Aは成熟した脳の神経細胞の樹状突起(dendrite)に存在する。MAP1Sは多くの組織で発現している。いずれのMAP1も全長が翻訳された後、C末側の微小管に結合できる部分(軽鎖)が切断され、残りのN末側(重鎖)と複合体を形成して微小管に結合する。MAP1の軽鎖としてLC3も知られているが、これは最近オートファジー(autophagy)に関連する因子であることが判明している。MAP1は微小管安定化能を持つが、後述のMAP2よりは弱い。アクチンフィラメント(actin filament)にも結合できる。MAP2/MAP4/Tauファミリーは熱安定性で、特定の構造をもたない繊維状のタンパク質である。C末側に3-5つの微小管結合配列からなる微小管結合領域を持つ。N末側は微小管の外へ伸び出し、微小管間の距離を規定したり、他のタンパク質の結合部位となっている。微小管結合領域はアクチンとも結合でき、N末突起領域を介して、微小管とアクチンフィラメントの架橋をしている場合もある。MAP2とTauは主に神経系の細胞で発現しているが、神経細胞ではMAP2は主に樹状突起に、Tauは軸索に存在しており、それぞれの神経突起を区別するマーカーとしてよく使われている。MAP4は神経細胞以外の多くの組織や細胞でも発現している。特に増殖細胞での分裂間期と分裂期の微小管の動態(安定性)変化に大きく寄与していると考えられている。このファミリータンパクの微小管重合能はリン酸化によって制御されている。複数のプロテインキナーゼによってリン酸化され、リン酸化により微小管結合および重合能が低下する。特にTauのリン酸化はアルツハイマー病(Alzheimer’s disease)で見られる神経原繊維変化(neurofibrillary tangle)の主要構成成分であることから注目をされている。また、Tau自身も前頭側頭葉型認知症(FTDP-17)の原因遺伝子であることが判っている。
参考文献
Dehmelt, L, Halpain, S. (2004) Genome Biol. 6, 204
Halpain, S, Dehmelt, L. (2006) Genome Biol.7, 224