千住 洋介・末次 志郎東京大学 分子細胞生物学研究所 細胞形態研究分野
Arp2/3複合体は、二つのアクチン関連タンパク質 (actin-related protein) Arp2とArp3を含むヘテロ七量体のタンパク質複合体である。サブユニットのArp2とArp3は、ATP結合ポケットを持ち、単量体アクチン (G-actin) に似た構造を持つ。Arp2/3複合体は細胞に見られる枝分かれしたアクチン繊維の枝(branch)の基部に存在し、試験管内でも枝分かれしたアクチン繊維を形成することができる。この枝分かれ形成機構については、当初二つの説、end branchingおよびside branching、があったが、現在ではおおむね次のようなside branchingモデルに収束している。アクチンのみで行われるアクチン重合においては、単量体アクチンの3量体形成が重合核となる。したがって、Arp2/3複合体はアクチン重合に必要な重合核形成の段階で、単量体アクチンが形成する3量体のうち、2分子部分を代替すると考えられている。不活性化状態では、Arp2とArp3の配向はアクチン重合に適した方向ではないが、Arp2/3複合体とその活性化タンパク質との結合は、Arp2とArp3の配向をアクチン重合に適した方向に変える。代表的なArp2/3複合体の活性化タンパク質は、WASPファミリータンパク質であり、WASPファミリータンパク質のVCAドメインがArp2/3の活性化を担う。VCAドメインは、Arp2とArp3の配向を調節するだけでなく、3量体形成に必要な残り一つの単量体アクチンにも結合し、結合した単量体アクチンをArp2/3複合体に供給することでアクチン重合を活性化する。活性化したArp2/3複合体は、既に形成されているアクチン繊維 (F-actin) の側面に結合しつつ、アクチン重合を誘導し、アクチン繊維の枝分かれ構造を形成する【画像1】。このような枝分かれしたアクチン繊維の形成は、ラメリポディア形成やクラスリン被覆小胞のエンドサイトーシス等において重要であると考えられている。
参考文献
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