鈴木 厚横浜市立大学大学院医学研究科
上皮細胞は多細胞生物の内的環境を外界から遮断する細胞層を形成する細胞である。体表面を覆う「表皮」、および臓器の管腔表面を構成する「粘膜」、血管等の内腔を覆う「内皮」などを構成する細胞の総称であり、成体の約50%の細胞に該当する。生体の内部環境を維持する上で重要な役割を果たすとともに、受精卵から多細胞生物が発生する際のダイナミックな形づくり(形態形成)の過程においても、重要な動的役割を果たす。 容易に類推できるように、上皮細胞が機能する上では、細胞間の接着が非常に重要である。その接着構造は、十分に機械的強度を有する細胞間接着を示す必要がある一方で、細胞間を通じた選択的な物質の透過性を示す必要もある。これらの要請を満たすために、「密着結合 tight junction」, 「接着帯 zonula adherens」, 「デスモゾーム desomosome」という(最初は電子顕微鏡によって形態学的に観察された)特有な接着構造を発達させている。特に、最初の2種の接着構造は細胞周囲を一周、連続してベルト様に形成されるのが大きな特徴である。そして、これらの構造が細胞内の細胞骨格系(特にアクチン骨格系、中間径線維系)と密接に結びついている(微小管との関連の解明は現在に至る研究課題である)。 上皮細胞が機能する上では、外界に接する細胞膜と内部環境に接する細胞膜の間で非対称性(上皮細胞極性)を発達させることも非常に重要であり、その発達機構は、上記細胞間接着構造とも非常に密接に関わっている。 上皮細胞の増殖と運動は細胞間の接着に大きく制御されており、接着の破綻(たとえばE-cadherinの発現低下)は上皮―間葉変換(epithelia-mesenchmal transition)に結びつき、発癌に結びつく大きな原因となる。実際に、ほとんどの癌は上皮性である。 上皮性(上皮極性)と幹細胞性との関係も、近年の研究において、大きく注目されている。
参考文献
Rodriguez-Boulan & Nelson.W.J. Science 245: 718-25 (1989)
Nelson W.J.Nature 422: 766-74 (2003)
Martin-Belmonte and Perez-Moreno. Nat.Rev.Cancer 12: 23-38 (2011)