清末 優子 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター (CDB)
微小管は、α-チューブリンとβ-チューブリンのヘテロ二量体が重合して形成される、直径25 nmの筒状のフィラメントである(図)。α-/β-チューブリン二量体が同じ向きに長軸方向に共有結合してプロトフィラメントが形成され、13本のプロトフィラメントが側面で結合して微小管となる。微小管の伸長が早い端をプラス端、反対側をマイナス端とよび、プラス端先端にはβ-チューブリンが位置している。α-チューブリンとβ-チューブリンはそれぞれグアニンヌクレオチド結合部位を1個所もち、α-チューブリンは常にGTPを結合しているが、β-チューブリンのGTPは重合すると加水分解されてGDPとなり、脱重合してフリーになるとGDPが溶液中のGTPに交換されるというサイクルを繰り返している。GTPの加水分解はチューブリンの重合には必要ないが、GDP-チューブリンはフィラメントの外側に向けて反り返った構造をとり、脱重合しやすくなるため、フィラメントの速やかな崩壊をもたらす[1]。重合直後のまだGTPを保持しているチューブリンからなる先端部分は“GTPキャップ”とよばれ、脱重合を抑止して持続的な微小管伸長を助ける[2]。 個々の微小管の挙動を観察すると、精製タンパク質を用いたin vitro再構成系においても、細胞内においても、比較的ゆっくりとした伸長と、伸長よりも数倍早い速度での急速な短縮を繰り返している。この挙動はin vitroにおいても特にプラス端側で活発であるが、細胞内ではマイナス端側は安定化因子によってキャップされていることが多く非動的なため(「微小管マイナス端結合因子」の稿参照)、伸縮の繰り返しは主にプラス端側においてのみ観察される。フィラメントの端で自発的な重合と脱重合の相転換を起こすという性質は、細胞骨格ポリマーの中でも微小管に特徴的なもので、ダイナミック・インスタビリティ(動的不安定性)とよばれている[3, 4]。ダイナミック・インスタビリティのパラメータは、微小管の伸長(growth)と短縮(shrink)、伸長から短縮への変換をカタストロフ(catastrophe)、短縮から伸長への変換をレスキュー(rescue)で表す(図)。伸縮がない状態をポーズ(pause)とよぶが、チューブリンの重合・脱重合が全く生じないという状況はほとんど起こらないので、伸縮の繰り返しの距離が検出限界以下の状態ともいえる。また、系全体のダイナミクスさの程度を表す指標として、カタストロフとレスキューの頻度の総和としてダイナミシティ(dynamicity)という言葉で表すこともある。 このような動的な性質は、微小管ネットワークのパターンを必要に応じて速やかに再編するために役立つ[5]。細胞の中では、様々な因子がダイナミック・インスタビリティを調節し、微小管の長さや配置を時空間的に制御している(「古典的MAPs」「微小管不安定化因子」「微小管切断因子」「微小管の重合核形成」「微小管プラス端集積因子(+TIPs)」の稿参照)。微小管再編の最も顕著な例は、細胞分裂開始時、間期微小管が完全に崩壊して分裂期紡錘体が形成される劇的な過程であろう。間期においても、細胞構造に応じた多様な配置をとって、オルガネラの配置や物質輸送を担い、秩序だった細胞活動の基盤となっている。
参考文献
1. Elie-Caille, C. et al. Straight GDP-tubulin protofilaments form in the presence of taxol. Current Biology 17, 1765-1770 (2007).
2. Howard, J. & Hyman, A.A. Growth, fluctuation and switching at microtubule plus ends. Nature Reviews Molecular Cell Biology 10, 569-574 (2009).
3. Hotani, H. & Horio, T. Dynamics of microtubules visualized by darkfield microscopy: treadmilling and dynamic instability. Cell Motil Cytoskeleton 10, 229-236 (1988).
4. Mitchison, T. & Kirschner, M. Dynamic instability of microtubule growth. Nature 312, 237-242 (1984).
5. Kirschner, M. & Mitchison, T. Beyond self-assembly: from microtubules to morphogenesis. Cell 45, 329-342 (1986).