清末 優子 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター (CDB)


EB1は、分子量約30 kDaの、微小管結合タンパク質(microtubule associated proteins (MAPs))のひとつで、伸長する微小管の先端に結合してコメットの様に微小管の伸長を可視化することから、“微小管プラス端集積因子(+TIPs)”に分類されている(図1, 2、「微小管プラス端集積因子(+TIPs)」の稿参照)。EB1は最初、癌抑制因子Adenomatous polyposis coli (APC)の結合タンパク質として酵母ツーハイブリッド・スクリーニングにより同定された[1]。同定当初は微小管との関係は知られず、単に遺伝子のクローンとしてEB1と命名された。しかしその後、EB1が微小管先端に集積する特異なMAPであることが明らかになったことから[2, 3]、EB1 = end-binding 1の呼称の適用が提唱された[4]。EB1ファミリー分子は、哺乳類にはEB1, EB2, EB3の3種が存在し、このファミリーは植物、酵母、菌類にいたるまで高度に保存されている。 これまでにEB1ファミリー以外にも多数の+TIPsが見つかっているが、EB1ファミリーはそれ自身で微小管プラス端に直接結合し[5]、他の多くの+TIPsのプラス端局在はEB1依存的であるため、EB1が+TIPs複合体のコアとなる存在である。+TIPsには、微小管を安定化する因子、不安定化する因子、あるいは様々な細胞内構造体に結合する因子など、機能が異なる多様な分子が含まれており、EB1ファミリーが相互作用する相手によって微小管動態に異なる影響を及ぼす[6]。 EB1の生物学的機能とは別に、微小管伸長端をトラッキングするという特性は微小管伸長ダイナミクスの解析に有用であるため、GFPを融合したEB1(EB1-GFP)は伸長端マーカーとして広く用いられている(図2)。微小管先端により特異的に集積するEB3もよく用いられる。特に、細胞中心部や紡錘体の内部などの微小管密度が高い場所で、個々の微小管を分離して検出できないような場合にも、微小管伸長を可視化することができ有用である。GFP融合体を作製する場合、EB1のN末端側への融合はEB1の局在や機能に悪影響を与えるため、C末端側に融合したコンストラクトが良い[7]。ただし、EB1のC末端へのタグ付加は、そこに結合する+TIPs、CLIP-170やダイナクチンとの相互作用を阻害してEB1が機能不全となるため、EB1-GFPの過剰発現は細胞機能を障害することがあることに留意しておく必要がある。しかし、適度な発現レベルであれば、本来の微小管ダイナミクス特性に大きな影響を与えることなく、微小管伸長を忠実に可視化することができる。許容範囲の存在量であればEB1-GFPが個体の発生過程にも障害を与えないことは、EB1-GFPトランスジェニック・マウスやショウジョウバエの樹立によっても確かめられている[8, 9]。
参考文献
1. Su, L.K. et al. APC binds to the novel protein EB1. Cancer Res 55, 2972-2977 (1995).
2. Mimori-Kiyosue, Y., Shiina, N. & Tsukita, S. The dynamic behavior of the APC-binding protein EB1 on the distal ends of microtubules. Curr Biol 10, 865-868 (2000).
3. Morrison, E.E., Wardleworth, B.N., Askham, J.M., Markham, A.F. & Meredith, D.M. EB1, a protein which interacts with the APC tumour suppressor, is associated with the microtubule cytoskeleton throughout the cell cycle. Oncogene 17, 3471-3477 (1998).
4. Tirnauer, J.S. & Bierer, B.E. EB1 proteins regulate microtubule dynamics, cell polarity, and chromosome stability. J Cell Biol 149, 761-766 (2000).
5. Bieling, P. et al. Reconstitution of a microtubule plus-end tracking system in vitro. Nature 450, 1100-1105 (2007).
6. Mimori-Kiyosue, Y. Shaping microtubules into diverse patterns: molecular connections for setting up both ends. Cytoskeleton (Hoboken) 68, 603-618 (2011).
7. Skube, S.B., Chaverri, J.M. & Goodson, H.V. Effect of GFP tags on the localization of EB1 and EB1 fragments in vivo. Cytoskeleton (Hoboken) 67, 1-12 (2009).
8. Shimada, Y., Yonemura, S., Ohkura, H., Strutt, D. & Uemura, T. Polarized transport of Frizzled along the planar microtubule arrays in Drosophila wing epithelium. Dev Cell 10, 209-222 (2006).
9. Abe, T. et al. Establishment of conditional reporter mouse lines at ROSA26 locus for live cell imaging. Genesis 49, 579-590 (2011).