長竹 貴広、濱崎 洋子
京都大学大学院医学研究科 免疫細胞生物学教室
概要・原理
腸管内分泌細胞は消化管の粘膜上皮層のわずか数%を占めるマイナーな細胞群であるが、食餌性脂質や糖質を感知すると様々なホルモンを分泌することで消化や食欲、代謝を制御し、腸管を内分泌器官として機能させることに大きく寄与している。産生するホルモンの違いにより10種類ほどのサブセットに分かれるが、特にGIPとGLP-1は膵臓ランゲルハンス島β細胞からのインスリン分泌を促進する(インクレチン効果)ことから、各々のホルモンを産生するK細胞とL細胞は糖尿病治療のターゲッットして高い注目が集まっている。本プロトコールでは、私達が取得したclaudin-4の細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体を用いて、FACSによるマウス小腸内分泌細胞の単離・分画法について紹介する。
装置・器具・試薬
EDTA、血清 (NCSなど)、RPMI1640、セルストレイナー (70μm)、染色抗体等(Fc-block、抗Claudin-4抗体 (HKH-189)、抗CD45抗体、抗TER119抗体、抗EpCAM抗体、Propidium iodide、Ulex europaeus agglutinin-1)、FACSAria
詳細
- マウスを頸椎脱臼し安楽死させた後、切開によって小腸を採取する。
- 小腸を長軸方向に切り開き管腔面を露にし、氷上PBSで糞便を洗い落とす。(図1 ステップ1)
- 洗浄後の小腸を2cm程の長さに切り、0.5mM EDTA, 2% NCS/RPMIを30mLほど入れた三角フラスコの中に入れて37℃, 15分間スターラーで撹拌する。(図1 ステップ2、3)
- 撹拌後、70um径のセルストレイナーに通して濾過液を採取する。(図1 ステップ4)
- 濾過液を350g, 4℃, 5分間遠心する。(図1 ステップ5)
- 上清を捨てて沈殿をほぐし、FACS解析用サンプルとする。
- 蛍光色素のついた抗CD45、抗TER119、抗EpCAM抗体、UEA-1、及びbiotin-claudin4(HKH-189)(濃度)をバッファーに入れ、氷上で30分インキュベートする。
- バッファーで2回washし、蛍光色素標識-avidinを添加して氷上で30分インキュベートしたのち、再度washする。
- FACS Ariaに供し、下記の1)かつ2)ゲートを腸管上皮細胞分画とする。(図2) 1)Propidium iodide、CD45、TER119 陰性(死細胞、白血球、赤血球をゲートアウト) 2)EpCAM陽性
- 上述した腸管上皮細胞分画をさらに、Claudin-4の発現とUEA-1の結合性により二次元展開し、4つの細胞群に分離する(図3)。
工夫とコツ
抗Claudin-4抗体は、FACS解析に有用な(細胞外ドメインを認識する)ラットモノクローナル抗体(HKH-189)が優れている。HKH-189は4%パラホルムアルデヒド固定した小腸の免疫染色にも有用である。 腸管上皮細胞は、Claudin-4の発現とUEA-1への結合性によって4つに分画することができ、腸管内分泌細胞はclaudin-4陽性画分に高度に濃縮する。このうち、UEA-1陰性画分はK細胞を主に含み、UEA-1陽性画分にはL細胞を含む他の様々な腸管内分泌細胞サブセットが含まれる。吸収上皮はclaudin-4陰性、UEA-1陰性に含まれる。(図3)
参考文献
Nagatake T., Fujita H., Minato N., and Hamazaki Y. Enteroendocrine cells are specifically marked by cell surface expresion of claudin-4 in mouse small intestine. PLoS One, 2014, 9, e90638.
Kawai Y, Hamazaki Y, Fujita H, Fujita A, Sato T, Furuse M, Fujimoto T, Jetten AM, Agata Y, Minato N. Claudin-4 induction by E-protein activity in later stages of CD4/8 double-positive thymocytes to increase positive selection efficiency. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Mar 8;108(10): 4075-80.