目加田 英輔久留米大学分子生命科学研究所
最近,どの学会の大会でもそうであるが,一般演題以外に非常に多くのシンポジウムが組まれるようになってきた。シンポジウムは,その分野の第一人者が選ばれるだけあって,誠に聞きごたえがある。ところが気になることに,シンポジウムが大入満員の大盛況である一方で,一般演題の方はしばしば非常に低調で盛り上がりに欠けることが多い。会場が分かれていることもあって,聴衆も少なく,ディスカッションらしいものも殆ど無し、といった状態である。一般演題こそ学会開催の重要な目的であるはずなのに,これは困ったことである。この様なことが起きる理由はいくつか考えられる。
(l)演題数の増加とともに,発表時間が短縮されてきたこと,特にディスカッションのための時間が犠牲になっていること,(2)シンポジウムが演者への配慮や学会の雰囲気を盛り上げるためという意味から最も良い時間帯に設定され,一般演題がその周辺に押しやられていること,(3)研究領域が細分化してきて,多くの聴衆にとっては,個々の研究は聞いても理解できないあるいは興味が持てないので,シンポジウムで話されるような完成した研究だけを聞こうとする傾向にあること,(4)一般演題の内容は玉石混交で,新しい知見を得るためにあるいは知的興味を満足させるための効率が悪いということ,(5)一般演題の発表に演者の側も力が入っていない、等々である。いずれにしても,この傾向は何とか改善しないと何のために年会を行うのかわからなくなってしまう。
細胞生物学会の会員数は近年急速に伸びている。今後演題数はますます増加してくると思われるが,このあたりで年会の発表形式のあり方を会員全体で考えてみる必要があると思う。私自身は,いっそのこと一般演題を全てポスター発表に切り替えるのが良いと考えている。実は,これまで私自身は,ポスター発表は口頭発表より格が低いような気がして抵抗を感じていたが,最近ポスターの方が利点が多いと思うようになってきた。口頭発表では.会場数が増えると聞きたい演題が同時に重なってしまうことがよくある。また,自分が聞きたい演題が始まるまでの間,場合によっては興味のない演題を聞かねばならず.これはかなりの苦痛である。その点ポスター発表では,自分が聞きたい演題だけを集中的に詳しく聞くことが出来る。口頭発表では躊躇するような質問でも気楽に聞くことが出来るし,演者と知り合いになるにも都合がよい。有効に時間が利用できるので,余った時間を久しぶりに会った友人とゆっくり話が出来る。こう考えてみると.ポスター発表にはなかなか利点が多いのである。もちろん,このような利点を生かすためには.口頭発表の時以上に予め講演要旨集に日を通しておく必要があるし講演要旨集にもキーワードの索引をつけるなどの工夫が必要であろう。
ポスター発表の運営の仕方という点では,海外で行われるカンファレンスはなかなか柔軟な扱いがなされていて参考になる。例えば,ポスター発表の演題をいくつかの区画に区切り,その中から興味深いと思われるものを座長が選択しそれらを別の時間に短く口頭で紹介させるという方法である。
これは,最新の仕事や,新人の意欲的な仕事などをクローズアップさせるために、非常によい方法だと思われる。私も,このようなことで紹介の機会を与えられたことがある。一つの発表に与えられた時間は全部で12分であったが,演者が発表できる時間は3分間(聴衆はすでにポスターを見ているということが前提になっている。),残りの9分間は質問とディスカッショソのためのものであった。ディスカッションの時間を確保するために,3分を守らない演者には座長が水鉄砲で水をかけて終わらせていたのは面白かった。水をかけるかどうかはともかくとして,その会で発表された演題の中から興味深いものを選ぶという点,ディスカッションを非常に大切にしようとする姿勢,そのセッションをどの様にするかという選択の自由がかなり座長に割り当てられていること等,今後我々も考慮すべきことと思われる。
学会の発表形式を変更することは,大会を準備する委員の方々に大変な負担をかける恐れがある。
そのことをよく理解しながら,実り多い年会が開けるように会員一同よく考えなければならないだろう。なお,上記と似た形式は昨年の日本分子生物学会年会でも採用されている。